『 奇人倶楽部  ― (3) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

  ぱちん。  開いた鏡は照明の光を写し虹色に輝く。

 

「 うふ ・・・ こうやって間近でみてもキレイな鏡ねえ … 

 ジョーってばやっと貸してくれたけど  手触りもステキ。 

 このひんやりした感じ、いいわねえ。  」

 

フランソワーズは手元の小さな鏡の表面を丁寧に撫ぜた。

名刺より一回りほど大きめなサイズで、上蓋には薄い石英が貼ってある。

光をうけて キラキラを複雑な色を見せていた。

蓋を開ければ 中は同じ大きさの鏡で、少し斜めにしてみると

 ― ヒトの姿、彼女自身の写真が映しだされる。

光る鏡の中に 襟元に小さな輝石をみせたフランソワーズが浮き上がるのだ。

「 ちょっと照れるわぁ ウレシイけど ・・・わたしも ジョーの写真が

 見える鏡が欲しいなあ 

掌で ひんやりした感覚を楽しみつつお気に入りのオモチャを手にしたコドモみたいに、

彼女は大満足だった。

 

 

初めて目にしたのは ― 昨夜 晩御飯の後のこと。

「 あら それこの前の鏡?  きれいねえ ・・ 見せて? 

「 え ・・・ あ・・・! 」

居間のソファでジョーは 手元にキラキラするものを見ていたのだが 驚いて顔をあげた。

「 あ。 見たらいけないモノだった? ごめんなさい ・・・ 」

彼がさっと手で覆ったので 彼女は少し身を引いた。

「 え!  ううん ううん そんなことないよ  」

「 いいの わたしが見ても 

「 う うん ・・・ いいよ  えへ・・・ 少し照れくさいけど・・・ 」

ジョーは手にしていたモノを おずおずと差し出した。

「 ほら これなんだけど ・・・ これ。 」

「 やっぱりこの前の鏡なのね?  わあ ・・・ すごい ステキ・・・ !

 なんか 前よりキレイになったみたい・・・ 」

彼女はそうっと手にとると うっとりと見つめた。

「 あの店で見つけて ・・・ きっときみも気に入ると思って  」

「 あの店?  ・・・ああ コレを買ったところ? 」

「 ウン。 」

「 キラキラしてる ・・・ ライト・ストーンかしらね この蓋 」

「 多分ね。 いろんな模様に見えるよな 」

「 そうね。  ねえ これシガレット・ケース? 」

「 し・・? それ なに。 」

「 え?  ああ  シガーを、 細巻きタバコを入れるケースよ  知らない? 」

「 ウン  ぼく 吸わないし 」

「 それは知ってるけど ・・・  見たことない? 

「 全然。 」

「 ふうん この国じゃ 使わないのかしら ・・・  ねぇ 開けていい? 」

「 ・・・ あ う うん ・・・ 横の小さなぽちっとしたの、押して。 」

「 これ ね?  ― あ 中もキレイ〜〜〜 

「 あの さ。 それ・・・ こう〜〜灯にナナメにしてみて? 」

「 ・・・ こう?   あ ・・・ わあ〜〜なにか見える・・・

  ! え ・・・ 誰・・? え!これ  わたし ? 」

手元の鏡の中には ―  自分が微笑んでいる。

襟もとには ジョーからのプレゼントが輝いてその煌めきを主張してい。

「 わた し・・・よねえ ・・・でも うそ〜〜〜  

ねえ ジョー。 これ この前撮った写真? 」

「 ウン ・・・ あの さ。 これ・・・写真をもってゆくと加工して・・・

 鏡の中に入れてくれるって言ってただろ? ほら この前撮った写真

 きみがもっていってくれたヤツ ・・・ 」

「 ええ あのお店、本当に不思議な雰囲気だったわよねえ? 」

「 ウン  ・・・ それで さ。 あの〜〜 コレ ぼくが持ってていいかなあ 」

「 え?  どういうこと 」

「 あの さ。 白状すると〜〜 きみにプレゼントって思ってたんだ この鏡。

 すご〜くキレイで ・・・  だけど あの その・・・ 」

「 ??  ね よ〜く見たいの、 それだけならいいでしょう? 」

「 え あ  うん ・・・  」

ジョーはなんだかもじもじしている。

フランソワーズはかまわずに手にしている鏡を覗きこむ。

「 うわあ ・・・ すごい・・・・素敵・・・! 

 ねえ ねえ ジョー これ・・・ちょっとだけ貸して? おねがいします。

 そしたら その後はジョーがもってて?  」

「 え う うん いいけど・・・ 」

「 ありがとう〜〜  きゃあ 手触りも本当に素敵〜〜 

「 あ あの  ごめんね・・・勝手に写真 使って 

「 え??  いいの いいの〜〜 わたし すごくうれしいわあ〜〜〜 」

なんとな〜く照れくさそ〜〜なジョーのほっぺに 彼女はさっとキスをした。

「 〜〜〜 うは ・・・ 」

「 キレイねえ〜〜  わたし鏡って大好きだけど こんな素敵なの、初めてみるわ 」

「 そ そう・・・? 」

「 ええ。 このひんやりした感じ、大好きだわ。 」

「 あ ぼくも、なんだ。 なんかこう・・・ 氷とかとはちょっとちがう冷たさ

 だよね。 」

「 そうよね。 これ・・・ 鉱物よ、きっと。 」

「 あ そうかもな。 金属とも違うもんな。 」

「 あたたかくひんやり って感じ・・・ 光のあて方でちがった色に見えるわ。 」

「 ウン。  あ で でも ・・・ ぼく、< 中身 > の方が

 もっとステキ ・・・って思ったりして〜 」

ジョーは ぼそっと言って さっとソッポを向いた。

「 中身 ?  ・・・ あ  やだぁ〜 ジョーってば〜〜 」

「 ほ ホントのことだもん。 

「 うふふ・・・ メルシ〜〜 ジョー。 じゃ これ・・・ ずっとジョーが

 もってて?  でも今晩 貸してね 

 

  ちゅ。  また小さなキスが彼の頬に降ってきた。

 

「 ! わっほほ〜〜〜ん♪♪ 

 

 

一晩だけ とねだって借りた小さな鏡 ― フランソワーズはしばらくその感触を

楽しんでいたが ・・・

「 あ そうだわ  お月さまや星の光なら ・・・ どんなカンジかしら 

もぞもぞ起きだすと パジャマのまま彼女はテラスへの窓のカーテンを開けた。

白い月が煌々と光を振り撒いている。

 

  カラリ。  窓を開けた。

 

「 きゃ・・・ やっぱり寒い〜〜〜 あ〜〜 でもキレイなお月さま・・・・ 」

一足 踏み出すと ― 降り注ぐ月の光の下、手の中の鏡を差し出した。

「  ・・・ き れ い ・・・!  宝石とかよりももっとステキかも〜〜 

 えへ ・・・ 写真はどうかしら 」

表面の輝きを楽しんでから そっと脇のぽっちを押す。

「 ・・・ すご ・・・い ・・・ 」

月光に照らされた自分自身の姿は ― 写真とはとても思えなかった。

「 ・・・ こ れ ・・・ わたしじゃないみたい ・・・

 すご〜〜い ・・・ どんな魔法を使っているのかしら・・・ 

しばし 彼女はみとれていた。

「 あ ヤダわ〜 自分の写真に ・・・ でも ホントにスゴイわねえ。

 この鏡にはどんな効果を仕込んでいるのかしら ね   ・・ クッシュン ! 

 きゃ・・ やだ やっぱり寒い〜〜〜 」

まだまだ寒い季節の夜、 フランソワーズは慌てて部屋に戻った。

「 ・・・ うふふ・・・ そうだわ、明日 お日様の下でも見てみようっと。

 う〜ん  やっぱりジョーの写真を映した鏡、欲しいなあ ・・・

 こっそり撮って ・・・ 作ってもらおうかしらねえ 」

つるり、と鏡を撫で彼女はわが胸に押しあてた。

 

 

翌朝 ― かんかんの青空にひゅるりと寒風が吹き抜ける快晴だった。

 

「 う〜〜ん ・・・ いいお天気ねえ お洗濯もすっきり乾くわ〜〜

 日本の冬って も〜〜信じられないほど明るくてお日様も暖かいわぁ 」

起き抜けに フランソワーズは窓に駆け寄り大きく開けた。

「 ・・・ クッション!  あは やっぱりまだ冬でした〜〜 寒・・・

 あ  そうだったわ あの 昨夜の鏡 ・・・ 」

彼女はベッドサイドに置いていたあの小さな鏡をもちだした。

「 お月さまの下で すご〜〜く素敵だったから・・・・ お日様ではどんな風かしら 」

 

  ぱちん。  窓際で 輝く蓋をそっと開いて 朝陽を受けてみた。

 

「 ・・・ ?? あ ら ・・・? ヘンねえ 」

掌の鏡を あれこれ角度を変えてみた。 直接光を当てたり 陰にしてみたり 

いろいろ工夫してみたのだが ― 

昨夜のあの写真、 微笑む彼女自身の姿は浮き上がってこない。

「 え〜〜 どうして???  だって ・・・ 」

部屋の奥、直接の日光が届かない場所まで持ち込み、 もう一度開く。

「 え〜〜 ・・・ と?  あ ほら ちゃんと映るわよねえ 」

鏡の奥で 自分自身が微笑んでいる。

「 ん〜〜〜 ?? 昨夜とはちょっと感じが違う かしら ・・・ でも見えるわ

 さっきは向きが違ったのかしら ・・・ 」

窓辺に駆け寄り こそ・・・っと鏡を日の光に差し出してみた。

「 ・・・ あ〜〜〜 ??? なんで?? 消えちゃッた ・・・

 どうして・・・?  魔法みたい 」

彼女は 手元の鏡をしげしげと見つめるが 薄い鏡には特別な仕掛けは見当たらない。

「 ・・・?? う〜〜ん??? 日中屋外 NG  なのかしら ・・・

 あ ジョーに聞いてみよ っと   あ いっけな〜い時間 時間〜〜」

鏡を閉じると 彼女はぱたぱたベッドサイドに戻り 着替え始めた。

 

 

 

  ガサ ガサ ・・・ バサリ。

 

新聞の間からチラシがたくさん落ちてきた。

「 うわあ ・・・ すごいなあ。  あっとまずは博士に新聞〜っと 」

ジョーは夕刊を取り上げると 書斎にいる博士に届けた。

「 え〜〜と?  夕刊なのにすごい量だなあ ・・・ で 取っておくのは〜〜 っと 」

居間にもどると 彼は散らばっていた広告類を片づけ始めた。

「 えっと・・・ 駅前スーパーのセール・チラシ だろ ・・・

 それから〜〜 あ 海岸通り商店街の < 今週のお買い得情報 > っと。

 あ! ポテチが安い〜〜〜 と・・・ 魚辰さんのもあるな〜〜 これはフランに

 教えなくちゃ。  あとはいらない か・・・ 」

所謂地域情報チラシを取りのけると あとは捨てるから ・・・と纏め始めたとき

ふと ・・・ 一番上のチラシに目がとまった。

「 ?  マジック ・ ショー? ・・・ へえ〜〜 こんなお知らせが入るんだ?

 へえ・・・・ 」

なんともレトロな、 いや わざわざレトロ風な衣装をまとった < マジシャン > が

黒いマントを広げている。 デザインも意識して昭和風だ。

「 魔法の世界にご招待 ・・・ か。  ・・・ あ そういえば・・・ 」

 

   アタシ。  奇術師 を目指しているんです!

 

スミレの花束にちょっと淋しい笑顔をよせていた少女の声が 思い出された。

「 ・・・ あのコ ・・・ こんなのに出られるのかなあ・・・

 名前 ・・・ なんてったっけ・・・ えっと 魔子 だっけ 」

< 出演者 > の文字の下に目を凝らすと、小さな小さなフォントで

あの少女の名前がみつかった。

「 へえ〜〜〜 ・・・ あ 同名の別人かも・・・ でも ・・・ 」

ジョーは なんとなくそのチラシを畳んでポケットにしまった。

その指が つるり、としたモノに降れた。

「 ・・・ 」

彼は ソレ を引っぱりだす。 ちかり、と不思議な光が手元に集まった。

「 やっぱさ〜 めっちゃキレイだよなあ ・・・・

 フランがさ、欲しそう〜なのはすごくわかるんだけど ・・・ 

 ぼく どうしても これ もっていたんだ。 ごめん フラン・・・ 」

ぽちり、と脇の突起を押せば透明な光の中に彼自身の顔が映る。

「 そりゃ・・・ オトコがちっこい鏡持ってるってキモいかもしれないけど・・・

 これはフランの写真入れ なんだ。 ・・・あ〜〜 キレイだなあ 」

彼は 部屋の暗い方に向かって鏡を傾け ― 浮かびあがった笑顔を惚れ惚れ見つめた。

「 ・・・ フラン ・・・ 大好き さ♪ 」

つるり、とその魅惑の姿をなでると、彼はそっとポケットに入れた。

次の瞬間 彼はあの黒髪のツイン・テールのコを、じっと見つめてきた黒い瞳を

思い出すのだ。

「 ウン ・・・ バイトの帰りにちょっと覗いて来ようかなあ。 」

 

  アタシのファン第一号 です!

 

少女の黒い瞳が じっと見上げてきた真剣な眼差しが浮かんできた。

「 頑張ってるって言ってたもんな〜  ちょっとでもステージに出れてよかったなあ 」

なんだか自分のことみたいに ジョーはうれしかった。

「 あ そうだ。 フランも誘ってみよう〜〜 あの店の雰囲気とか気に入ったみたいだし

 えへへ〜〜〜 ・・・ デート になるかあ〜〜 」

今度はフランソワーズの笑顔が ジョーの心の中をいっぱいにする。

「 そうだよ 一緒なら ・・・ いいよな〜 

うんうん ・・・ 自分自身で納得し ジョーはかなりご機嫌だった。

 

「 ただいま〜〜〜 」

 

玄関から明るい声がきこえてきた。

「 あ フラン〜〜〜 お帰りっ 」

彼は広告類をほっぽりだして 玄関にとんでいった。

 

 

 

昼間でもカーテンをしっかりと引き、そこには深い暗さが溜まっていた。

空気も重く床に淀んでいる。

「 ―  そうよ ・・・ こっちに来て ・・・ 百狩り を目指して

 ずっと明るい中で生きてきたけど。  ああ やっぱりこのカンジ、ほっとするわ 」

魔子は 隅の引き出しから小型の鏡を、そして一枚の写真を取りだした。

「 この前は失敗しちゃったけど ・・・ あの金髪の女性のと同じ方法で

 とにかく取り込んでおくわ  だってあのヒトは どう見てもマンだったもの。

 魔力は取り付かないけど ともかく < 虜 > にはできるはず ・・・ 」

彼女は改めて しげしげとその写真を見つめた。

長めの茶色い前髪の陰で 同じ色の瞳が優しく笑っている。

なんとな〜く逃げ腰、というか引き気味 というか ― でも暗い感じではない。

「 うふ ・・ きっと照れ屋さんなのね・・・ 

 でも ・・・ いいヒトよね。 ハンカチ、まさか返しにくるとは思わなかったわ。

 それに ― あの 花 ・・・ 」

彼女は暗がりにぼうっと見える花瓶を振り返る。

そこに差した紫の花は もう萎れかけている。

「 あんな可愛いプレゼント ・・・ 初めてだわ。  

 高価は薔薇よりも豪華な蘭よりも ― 好き ・・・! 」

手を伸ばし そっと花瓶を手元に引き寄せる。

「 あのヒト ・・・ 優しい瞳をしていたわ ・・・

 いえ!  百狩り のフィナーレには最適よ。 獲物なのよ 獲物。 」

きゅっと唇を引き結び 魔子は先ほどの新しい鏡を手元に引き寄せた。

「 ― これは  魂を取り込むための入口 なんだから ・・・ 」

彼女は 鏡の上に茶髪の少年の写真をきっちりと乗せた。

「 アタシの ― スペクターとしての ・・・ いえ! アタシは マン よ!

 アタシはパパのために ・・・ まだあの世界に手を貸しているだけだわ。

 パパ ・・・ 待っていて ・・・  マンになってマジシャンとして

 生きてゆきたいの・・・ 」

 

  ほう ・・・・ 魔子は手元の灯を絞り 闇がぐっと迫ってきた。

 

 

 

  バタン ・・・ ガサ ガサ 

 

「 え〜と?? こっちのにあったかしら・・・ 」

フランソワーズは何冊かのアルバムをもちだした。

「 う〜〜ん  ・・・ いい写真 ないかなあ〜  わたしもあの鏡・・・

 欲しいの!  ジョーの写真をもっていって ― 作ってもらうわ。 」

机の上に置いた数冊のアルバムを 彼女はぱらぱらめくり始めた。

「 ・・・ これ ・・・ は ちょっと笑顔が足りないわねえ ・・・

 え〜と  これは ・・・ う〜ん・・・ まさか 防護服姿のは表には出せないし〜 」

 

 パサ パサ ・・・ パラパラ〜〜 

 

「 あ。 これがいいわ。 うふふ・・・一番お気に入りなのね〜 わたし 」

彼女がそっと引きだしたのは ― 二人で 顔を寄せ合いなにかの記事? ながめている

いわゆる ツー・ショット

「 うふ♪ これ・・・ ピュンマの隠し撮りなんだけど ステキ♪ 

 

 

Last updated : 04,12,2016.                back    /    index   /   next

 

 

*********  途中ですが

今回 短くてすみませぬ〜〜〜 <m(__)m>

あと一回 ・・・ 続きます〜〜〜〜 <m(__)m>